【SS】~ある古書店のはなし~  第三章 変わったお客さん

 ある日の事、うちの店に変わった人が来た。部活の帰りなのだろうか、袴姿の人が店に来た。その人が弓道部なのは、直ぐに分かった。
 まず、弓と矢筒を持っている。そして、大抵の武道は試合があったとしても更衣室で着替えをする。
 しかし、弓道だけは何故か着替えないのだ。駅などで弓道着姿の人影をたまに見かける、弓道は弓を引く場所から的までの距離が28mと通常のスポーツと比べて場所が要る為、基本的に更衣をする場所が無い。その為、試合や大会などでは予め道着を着用して会場に向かう事が多い。
 三崎自身も、学生の頃は弓道部に所属していたので「あ、試合帰りなのかな。」と思っていた。高校の通学路になっているこの通りは、学生の人が良く通る、試合で別の高校から来た学生が帰りに寄り道をしているのかもしれない。三崎は袴姿に納得しているが他の人は少し驚いているように感じる。その客に違和感を抱いているだろう。その客は、店内を回った後、弓道教本をめくっていた。それから、ライトノベルの棚を見渡し、文庫本を見ている。
 しばらくして、店内の客が次々と本を買うなり、立ち読みを終えて出て行くなりして、店内には、弓道着の人一人になっていた。
 三崎はまた、カウンターで本を読んでいた。そして、その客が本を持ってカウンターに来た。三崎は、「330円です」と言った。そしてその客は、財布から狐のイラストがペインティングされた電子マネーを取出し、カードリーダーにかざした。
 そして、決算が終了しふとその人の顔を見ると、頭の上に獣耳が生えていた。最初は、本を読んでいたから目が疲れていたのだと思った。しかし、その客が振り返り出口の方に進んで行く時にしっぽらしき毛が袴の横穴からちらっと見えた。
 そして、外に出た瞬間には太陽の光の角度のせいなのか風のように消えてしまった。
 閉店時間が過ぎ、店内に客が誰もいないので、帰宅をした。いつも通りにPOSレジ代わりに使っているタブレットをPCに接続した時に、三崎は不審な点があるのを見た。あの弓道着を着ていた人が使っていた電子マネーのアドレス、発行元、使用人名等が一切不明になっていた。確かに見たことが無いカードだなとは思ったけどここまで不明になっているのは珍しい。
 しかし、支払額と支払履歴証明だけはちゃんと表示されていた。支払履歴証明もあってお金もちゃんと移動出来ていたので購入はしている。しばらく考えて三崎は、あれは狐か何かだったと確信した。
 三崎は、「まあ、葉っぱじゃなくてちゃんとお金は払っているからまあ良いか。」と呟き。狐が買い物をするなんて『てぶくろを買いに』みたいだと思った。あっちは、カードじゃなくて銀貨だけど。

Posted by 三宅暁