【SS】~ある古書店のはなし~ 序盤 世界背景
街の一角に小さな古書店がある。三崎は今日もレジの所に立ち今日の夕食を考えたりしていた。ふと店内を見渡せば客が2~3人居るだけである。店の奥は今時珍しい白熱電球の橙色の光が本を照らしている。
一人の客が1冊の本をカウンターに持って来た。「230円です」と三崎が言うとその客は「Adyで」と一言いった後にカードをリーダーにかざした。効果音と共に電子決算が一瞬で完了した。そして客は、店を後にした。
時は、2021年東京オリンピックが終わり日本全体のお祭りムードがようやく終わった頃だ。世間は、景気が良いと言っているがこの小さな古書店にはそのような事は無くこの空間は平凡な毎日を繰り返していた。
三崎は、この古書店を1人で切り盛りしていた。ここ2、3年でICT技術が発達し個人の店でも電子マネーや管理システムをお手軽に導入する事が出来る様になった。
しかし、いくらデジタルデバイスや電子サービスが充実しても現物を好む人は多い様でこの店にはまばらながらも人が来ていた。
古書ならフリマアプリなどでも取引されているが、「交渉がめんどくさい」と思う人やそう言うサービスに疎い人もいて、なにぶん取引出来る人が限られてしまう。店舗ならネット上で行われている交渉もしなくて良い上、サービスを利用できない人も利用できる。
また、この店は近くの高校の通学路になっており下校途中に寄り道をする学生も来ていた。その高校は、校内では電子機器の利用を禁止しているらしく、ライトノベルを買う高校生も多かった。
三崎が暇だなと思っている最中、「この本、有りますか?」と声を掛けられた。三崎はその人のスマートフォンの画面を見てから「少々お待ちください」と言い、レジ代わりにしているタブレットの画面で管理タブを開きその本のISBNコードを打ち込んだ。
検索結果は、「該当書籍なし」と表示された。
「申し訳ありませんがその本は有りません。」とその人に言った。その人は、「そうか」と言った後この店を出て行った。
このように、1人でも在庫の管理が出来るので便利な世の中になったものだ。いくら店が狭いと言えど、今の事をするには少し前までアルバイトを募集しなければならなかった。
そして三崎は、今日もここで本を売っている。変わりない日々を過ごすばかりだ。しかし、1年365日常に同じ事が起こっている訳では無い。日々のちょっとした変化が楽しかったり悲しかったりする。ではそのような「ちょっとした事」を覗いてみよう。
※POSとは、インターネットに接続され様々な情報を収集するレジスタ
※ICTとは、インフォメーションコミュニケートテクノロジーの略で電子機器を使った情報分析やコミュニケーションの事
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